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新人だから彼女は完璧でいてほしくないのです。

photoQ.彼女を機転の利く役にする仕上げとして、第1話の1シーンでホテルの部屋に一度携帯電話のデータを取りに戻った時、2台とも携帯が部屋に残っている状態の中で彼女は賢くやりましたよね。そしてFBI捜査官が「ここに戻ってきた本当の目的は?」と聞くと「靴よ。私、靴を取りに戻ってきたの」と言いましたよね。
A.あのシーンは好きです。『ボーン・アイデンティティー』風ですよね。パイパーの知能を一般の人間よりも賢く、そして回転を早く見せるように製作チームでしぼり出したアイディアです。なぜなら、彼女1人で脚本チーム全員分の知能があるはずですから。そのようなシーンを必ず1話に1回は入れました。
また、ケイ・ウッド監督も後に出てくるシーンを同様に仕上げました。オーギーがケンカに巻き込まれるシーンです。彼は盲目です。このシーンは『ボーン・アイデンティティー』のどのシーンよりも面白かったです。本気のケンカに巻き込まれてしまったのです。彼ならいったいどのようにこの状況を切り抜けるか、しかも一瞬で考えなければならない。そこで彼は電気を消すのです。明るい中で目が見える相手とケンカをすれば負けてしまうでしょう。しかし電気を消して暗くすればオーギーが有利になります、なぜなら彼は視覚に頼らないことに慣れているからです。
オーギーの独壇場です。結局のところなぜ私が一般的なアクション物よりもスパイ物が好きかというと、スパイは頭がキレるからです。できの良いスパイはキレのあるスパイです。ジェイソン・ボーンの役にキレの良さは重要でしたしアニーの役にも同様に不可欠です。が、はじめから任務を遂行するための技術が完璧ではないのです。なぜなら彼女は新人なので、完璧だと不釣り合いになってしまいます。

photoQ.総指揮として“作品を作り上げる”という経験が「コバート・アフェア」にどう活かされていますか?
A.ひととおり製作の経験を積み、何がうまくいくかがわかってきました。マット・コーマンとクリス・オードと細かく打ち合わせをし、演技にはきちんとした方向性が必要だと確認し合いました。もし前の経験がなければこれほどその重要性を主張してこなかったでしょうね。それもふまえて、アニーは銃撃戦中にブラックベリー(携帯電話)をその場に置き去りにするというストーリーになったのです。人間ですから。このドラマの登場人物は完璧ではありません。
アニーの場合、彼女はまだスパイ初日ということを皆知っています。「コバート・アフェア」はTVシリーズですし、マットとクリスがとんでもないアクションを毎回要求するので、シーズンが進むにつれ第1話よりももっと迫力あるアクションを見ることになると思います。するとそのエスカレートしていくアクションに対応するような撮影方法を見いださなければならないのです。そのスタイルが定着していきました。
その方法が最善なので追求する必要があります。実際に、第8話の撮影でロッド・ハーディという監督のもとで桟橋のアクションシーンを撮影しました。台本では彼女が落水し、水中で彼女を殺そうとしている人間ともみ合うという劇的で怖いシーンがあります。「これはTVドラマだから撮影の時間にも限界があるだろうし、水中戦を撮るのは技術的にも難しいのではないかな?」と、このエピソードの監督、ロッドが話し合いの中で提案しました。先ほども申しました通り各監督とミーティングをもうけ、このドラマのアクションシーンの方向性を正しく理解してもらう必要性があるのです。たとえどんなに激しいアクションでも、必ずその要素を撮影時に引き出せるように。 Canon Mark 5D IIなどの新しいテクノロジーを駆使することも重要です。そうです、あのキヤノンの写真用のカメラ、Mark 5D IIです。しかし、1秒に24コマのHD動画撮影ができるのです。『フェア・ゲーム』でも多少使用しました。そして、「コバート・アフェア」では5台使用しています。
photo 先ほどの水中の格闘シーンはこのカメラを使用すれば撮影可能です。つまり、カメラマンに1人Mark 5D IIを持って水に入ってもらうだけです。ところが一昔前、と言っても数年前のテクノロジーを起用しているThe Red(カメラの名称)等を使用していたなら、まずカメラを防水する方法を考える必要があったでしょう。防水するために必要な機材は膨大なので、水中での格闘シーンを撮影することがほぼ不可能になります。そしてカメラが濡れぬよう遠距離撮影すると、面白い映像は撮れません。
しかし新しいカメラは水上数インチの距離からでも水中シーンの撮影を可能にしてくれます。積極的に最新技術を取り入れることこそが方向性のしっかりとした映像を撮るための残りの半分のアプローチ方法です。